〜 その6 〜 |
それから無事に着替えも届いて、再開されてからは至極順調なものだった。 着替えるのにまた一人になったから、その時に変わったらしい。 いつもの、フツーの、ちょっと抜けてて不器用な圭ちゃんだ。 また変なのに変わってたらどう攻撃していいかわからなかったし、よかったよね。 「保田さーん。あのー」 「どうしたの? 石川」 現地解散てことだったけど、後藤が何かしようとする前に石川が保田に近寄っていった。 じりじりとにじり寄るようにして、こっそり会話をうかがう。 「大丈夫ですか? さっき水の中に落ちちゃったりしたし」 「ああ、全然平気。あったかくしてたからさ」 「そうですか? 風邪とか・・・」 「なんだよー。珍しいじゃん。心配してくれてるの?」 「いえ! あ、そのー・・・」 「ありがと。でも、本当に大丈夫だよ」 ううん?! なんかあったのか? いや、今日はぴったりくっついてたんだし、そんなわけないぞ。 後藤ははらはらしながらその様子を再び観察する。 「ご飯どうします?」 「あ、そっかー。ちょっと早いね。石川はこれから大丈夫なの?」 「はい。石川は」 「じゃ、どっか行く?」 「ま、待ったー!」 後藤はその間に入り込んだ。 おいおいおいおい。後藤との約束はどうなったんだよ! けど、今の圭ちゃんはさっきの圭ちゃんじゃないから、何が起こったかわからないみたいできょとんとしてる。 「どうしたのさ。後藤。あんたも行きたいならそう言えばいいじゃん」 「ごっちん。そうだよ。どうかしたの?」 これじゃまるで、後藤が2人のことにヤキモチ妬いてるみたいじゃんか。 つうか、梨華ちゃん。あなたの方こそ危険なことをしようとしてるんですよ? 「どこがいい? 前に行ったところにする?」 「そうですね。あそこ、いい雰囲気でしたから。そうしましょう!」 2人同時にちらっと後藤を見た。 なんだかすっごく邪魔なことをしてるみたいな感じ。 どうしよっかなー・・・でもなー。 「来るの? 来ないの?」 一見普通の圭ちゃんに見えるし・・・一人にならないなら、そんな・・・。 「変なの。石川、行こっか」 「そうですね。ごっちん、じゃ」 迷ってるうちに2人は並んで後藤の前から行ってしまった。 追うべきなの? でもさぁ、あれだよ。うん。 ということで、残された後藤は違う圭ちゃんと交わした約束を宙ぶらりんにされたまま取り残されてしまった。 でも、これで圭ちゃんちに行かなかったら、おしおきなんだろうなー・・・。 仕方がないのでその辺をちょっとぶらぶらして時間を潰す。 お腹減ったから、一度家に帰ろうかなーとか考えたけど、また出るのって面倒そうだし。 寂しく一人で適当に食べて、それから圭ちゃんちの近くにまで行った。 今ごろどこで何してるんだか。 梨華ちゃん危ない目にあってなきゃいいけど。 ノーマル圭ちゃんなら大丈夫・・・のはずだし。 悶々と考えつつ一回りして圭ちゃんの家の前。 くそー。これでもしあっちがすっぽかしたらどうするつもりだよ。 とか思いながら玄関に向かう。 入り口のホールのところだった。 「あっ!」 そこには二つの人影があった。 見間違えようもない二人。 「・・・じゃあ、また今度ね。悪かったね、送ってもらっちゃって」 「いえ・・・。保田さんこそ、気をつけてくださいね」 「わかってる」 ぽん、と頭に手を乗せてなだめるところはまるで・・・。 そーいうの、ありなんですか?! 「遅くならないうちにさ」 「そうですね。はい。また明日」 「うん。バイバイ」 さっと角に隠れた後藤の方に別れた石川が来そうになったので、さらに奥に体を入れた。 危うくゴミ箱をひっくり返しそうになりながらも脇を過ぎるのを見送った。 ちらっと過ぎてから石川の後姿を見ると、軽くスキップでも踏んでるみたいだった。 角を曲がって見えなくなったところでばっと後藤は勢いよく飛び出した。 まっすぐ保田の消えたホールに向かって走る。 「圭ちゃん!!」 「んっ? 後藤?」 きょとんと階段の途中で止まった保田のまん前まで更にダッシュ。 「なんでこんなところに・・・?」 「それより! 随分早かったじゃん。梨華ちゃんと食事じゃなかったの?」 「あーそれね。やっぱりさっき水に落ちたのが悪かったのか頭痛してきちゃってさ。それで悪かったんだけど、早めに切り上げてきたんだ」 そんなとこかい。 後藤はその原因を作ったのは自分であることも忘れて保田の手を引いた。 「待ってよ。どうしたの? そっちはあたしの部屋だよ」 「部屋に行くの! 圭ちゃん約束したじゃない」 「約束・・・? そうだっけ?」 「そうなの!」 こうなったら実力行使のみ。 バスの中でイタズラされたときに思いついた計画を実行すべく、後藤は押しも強く保田を保田の部屋に引き込んだ。 慌てて部屋の鍵を出した保田から奪いとるようにしてさっさと部屋の中へ・・・。 勝手知ったる他人の家てなもんで先に椅子に腰掛けた。 逆に何が何だかわからないような保田は困った顔でカウンターキッチンの辺りをうろうろしている。 「あのさ。・・・お茶でも・・・」 「いいから! ちょっとこっちきて座って!」 すごむとかわいいくらいに従順に保田は後藤の隣に腰掛けた。 2人掛けソファーでじーっと横から顔を後藤は睨みつける。 「なんだよー? 一体何が起きたっていうんだよー」 「圭ちゃん。質問があるんだけど」 「質問? 今度は何を?」 「今の圭ちゃんは『圭ちゃん』?」 「?」 わかってないらしい。 わかってないってことは、つまり圭ちゃんてことだよね。 「ね、あんまり言いたくないけどさ」 「何?」 「後藤、最近ちょっと変じゃない?」 「変? あたしがぁ?」 「だって、ほら今日バスの中とか・・・あと、仕事中にあたしを突き飛ばしたり・・・」 どうも人格が別のときでも、実際にされたことは覚えているものらしい。 ただ、その後に自分がしたこととか、後藤の動機とかはわからないみたい。 都合よすぎじゃない? けどいきなりそんなこと言われた後藤はそこまで分析できるはずもなくって、呆れて口をぱくぱくとさせてしまった。 「そりゃねー。後藤だってやりたくてやってるわけじゃないんだよ」 「??? じゃあ、何か理由があるの? 何?」 って、説明してもねー。 そしたら合計何人に同じ説明を繰り返せばいいわけ? だんだん面倒くさくなってきてしまった後藤。 「あー・・・。うん、あのね。実はさぁ・・・」 「うん。もし心配ごとがあるなら言いなさいよ? あたしでよければ聞くからさ」 「(いけいけしゃあしゃあと・・・)」 「何か言った?」 「ううん! それよりさ、やっぱちょっと喉乾いたかも」 言って後藤がちょっと甘えるように声色を変えると、保田ははいはい、と人良く立ち上がった。 背中を後藤に向けたその瞬間。 「圭ちゃん! ごめん!!」 「えっ!? うわーっ」 強硬手段発動。 後藤は手近にあった本(ハードカバー)を取って、思い切り保田の頭に打ちつけた。 うまい具合(?)に角があったのか、ごん! と鈍い音がして保田は床に倒れた。 ぜーぜー、と肩で息をしてそれを見下ろす。 そろそろ別の手段を考えないと、いつか犯罪を犯しますな・・・。 賭けみたいなもんだった。 後藤は駆け寄って気を失ったようになった保田の肩を持ち上げた。 「圭ちゃん! しっかりして! 大丈夫?」 「う・・・うーん・・・」 肩をゆすると重そうに瞼を開ける。 何度か瞬きして、それから目が合った。 「圭ちゃん。平気?」 「あ・・・。うーんと・・・」 「何? どうしたの?」 後藤は緊張しながらその様子を見下ろした。 保田は抱きかかえられたままあたりの様子をうかがう。 「・・・文章とは・・・」 「は?」 「文章とは不変なもの。ゆえに人はそこに見解と冠する絶望の表現を行う。(フランツ・カフ・・・」 ガスっ! はずれだったみたいだね。 後藤がチョップを放つと、再び保田は気を失った。 気を取り直して。 「圭ちゃん! けいちゃーーん」 「う、うう・・・」 苦しそうにしながらも、再び保田は瞼を震わせる。 数度のしばたきの後で、ぱっと開いた目が合った。 「ご・・・とう・・・」 「そうだよ! 圭ちゃん、どうしたの?」 「今・・・あたしのこと、殴った?」 「え? そ、そんなことするわけ・・・」 きゃっ、と軽く叫び声を上げて保田は飛びのいた。 後藤はびっくりしてしまったけど、外に飛び出すとかそういうんじゃなくって、部屋の隅っこの方で膝を抱えこむようにしてがたがた震えてる。 うーん。もしかしてこれは・・・。 「圭ちゃん。落ち着いてよ。ほら、後藤はここにいるから」 「い、今後藤、あたしのこと殴ったもん。そうでしょ!」 いやー、と力ない声と共に腕をばたばたと回す。 後藤は心の中でガッツポーズを作った。 顔にそれが出ないように細心の注意を払いつつも。 「違うよ。後藤は、圭ちゃんのこと大事に思ってるのに、そんな酷いことするわけないじゃん」 「・・・え? 大切?」 「そうだよ。後藤は圭ちゃんのこと、とーーーーっても大切に思ってるんだよ」 「と」の字に力をこめて話し掛ける。 保田の腕の動きが止まった。 じっとそう言った後藤の顔をうかがうようにして。 「・・・それ、本当?」 「本当だって! 当たり前なこと聞かないでよ。だから、さ。ほら」 後藤は笑顔で手を差し出した。 保田はおっかなびっくりながらも、それに手を伸ばしかける。 握手になって、後藤が腕を引くと、保田は立ち上がってうつむいた。 もじもじ、と自分が言った事を反省でもするみたいに指を組む。 うっはー。大当たりじゃん、と後藤は思う。 「圭ちゃん?」 「何、後藤」 「圭ちゃんはさ、後藤のこと、どう思ってる?」 「どうって・・・何が?」 「だからさ、『好き』とか『嫌い』とか・・・」 保田はぶんぶん、と首を振った。 後藤は吹き出しそうになるのをこらえつつ、保田の手を取った。 「嫌い?」 「そ、そんなこと・・・ない・・・」 「好き?」 一気に保田の顔が真っ赤になった。 よし、チャンスとばかりに後藤は保田の顔を抱きこんだ。 ひゃっ、とびっくりしたみたいだったけど後藤がちょっと力をこめるとあっという間に大人しくなる。 「後藤ね、圭ちゃんのこと大好きなんだー」 「そんな! そんな、急に言われても・・・」 「だからね、後藤はぁ。圭ちゃんにも後藤のこと好きって言って欲しいなー」 「・・・え?!」 向かい合うと、相変わらず耳まで赤くした顔で保田は目をそらした。 それを追うようにして後藤は頬に手を添えて自分を向かせる。 「ちょっと前、キスしたの、覚えてる?」 「えっと・・・うん」 「またしてもいい?」 「えぇっ!!」 逃げよう(というか体をそらそう)としたらしい保田をつかまえて、後藤は自分からキスをした。 抱きしめたときと同じで最初はささやかに抵抗しようとしたものの、すぐに力が抜ける。 歯を食いしばってるのが気になるけど、ともかく後藤が幾分か動くのを黙って耐えているみたいだった。 顔を離すと、恥ずかしそうに目をそらす。 「圭ちゃん。あのさー・・・」 「・・・ん?」 「後藤ね、実は圭ちゃんともっと仲良くなりたいんだけど」 「どういう、こと?」 びくびくと腰を引く保田を見ているうち、後藤は今まで自分でもわからなかったような気持ちになってくる。 つーかっ! こういう態度取られて、そう思わない人っているの? 「圭ちゃんとー。だからー」 「・・・な、何?」 「うーん、どうしよっかなー。だって、圭ちゃんそういうのイヤそうだしー」 「そ、そんなことないよ」 「そう? じゃ、後藤のお願い聞いてくれる?」 「・・・」 真っ赤になった圭ちゃん。 後藤が額にキスすると、びくっと跳ね上がらんばかりの態度。 そっと上着の裾に手を伸ばした。 「や・・・後藤、何・・・」 「やっぱりダメかぁー。ふーん」 「そ、そうじゃないけど・・・だから、その・・・」 後藤の手を振りほどこうかされるがままになろうか迷ってるように軽く手を包む。 思わずぞくぞくっと背中にいけない衝動が走る。 「後藤に脱がされるのって、イヤ?」 「・・・」 「ふーん」 「あ! そうじゃなくて・・・だからその・・・」 そうそう。 これこそ後藤のしたかったことなんだよね。 今が思いっきりチャンスなんだし。 もうちょっといじめてもおもしろいかな。 「そうなんだー。圭ちゃん、そんな後藤のこと好きじゃないんだね」 「違うよ! けどさ・・・恥ずかしいし・・・」 「じゃあさ、自分で脱ぐ?」 「!!!」 にやにやと余裕のある笑いを見せた。 そうですよー。 違う人格だったとはいえ、同じことを後藤は圭ちゃんにされたんですよー。 そんなことも知らずに圭ちゃんは戸惑った様子で後藤をうかがっていた。 すごく困った顔。今まで見たことないくらい。 「・・・」 「ダメ?」 「・・・後藤が・・・」 「何?」 「後藤が・・・やってくれた方が・・・」 言ってから、保田は後藤にぎゅっと抱きついた。 思わずよろけそうになるけどなんとか踏みとどまる。 耳の熱さも首のあたりでわかるようで、後藤はぽんぽんと頭を撫でた。 「じゃあさ、いいの?」 こくり、と保田はうなずいた。 後藤はしてやったり、と心でガッツポーズを作って保田の体を離す。 顔を近づけると、また力入ったキスになった。 「もっと楽にさ、ね?」 「・・・うん・・・。でも・・・」 「後藤を信じらんない?」 「そんなこと・・・」 口を開いた瞬間に舌を入れる。よし、うまくいった。 さすがにそこから閉じることもできなくなったのか、保田はもうなすがままって感じ。 肩を撫でたりしてるうちに、自然とうまい具合になってくる。 「ほら、わき開かないと、脱げないよ」 「・・・うん」 形勢逆転。 後藤はかつて自分がされたことを順にしていくがごとく、保田の体に触れた。 素直すぎてびっくりするくらい、保田は素直にそれに従った。 けど、かつての自分と違う部分と言えば。 「後藤・・・」 「あ! ちょと、何?」 やっぱり心は違えど体は同じであるって証拠だろうか。 圭ちゃんは、上手だったのでした。 |
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