BODYTALK
〜 その1 〜




 都会の雑踏の中。
 ビルの一角を歩いていた後藤はふと足を止めた。
 珍しい色のシャツが店頭に折りたたんで置いてある。
 秋の新作らしいセーター。
 なんとはなしに手にとってみる。
「・・・うわ、高っ・・・」
 小さくつぶやいてしまった。
 だって、セーターだけで2万て、ちょっと高すぎじゃない?
 けど、すごく派だ触りとかよくって、買えはしないものの未練がましく撫でてみたりして。

 奥に控えていた店員さんがめざとくその様子をみつけて出てきた。
「どうですか? それ、今秋の流行色なんですよ」
「え? はぁ・・・いや、その・・・」
 しどろもどろでかぶっていた帽子を深く下げた。
 やばっ、ばれちゃうかな。
 そうしたら余計にあやしいと思ったのか、店員さんが後藤の顔を覗くようにしてきた。
「あ、やっぱりまたあとで来ます!」
 後藤は逃げるようにしてその場を去った。
 ギリギリセーフだろうか。
 けど、人気芸能人がお金なくて買えないとことか、見せたらいけない気がするなあ。

 少しその場を離れてから店の様子を眺めた。
 普段自分が入る店に比べてやっぱり年齢層がやや高い。
 まだ後藤には早いっつーの。
 そう自分を納得させてその場は去ることにした。

 そんな後藤を遠巻きに、一分始終を眺めていた人が一人。
 後藤が別のアクセサリー売り場に入って行くのを確かめると、その人は店頭に置き去りにされたセーターを手にとった。

           

 ふぅ〜、とカップに刺したストローをくわえたまま後藤はホール脇に腰掛けて休んでいた。
 平日なのにすごい人だよね・・・。
 久しぶりのオフで繰り出した買い物だ。
 本当はぐっすり寝るつもりだったんだけど、なぜか朝早くから目が覚めて。
 誰か誘ってもよかったけどなんとなく一人で出歩くことにした。
 たまにはそうするのもいいかな、と思っただけなんだけど。

 だけど、やっぱり一人だとつまんない。
 ふらっと歩くだけならもうちょっと広いところでもよかったし。
 一通り店も見終わったことだし、そろそろ帰ろうかな、と思っていた矢先だった。
「後藤!」
 隣に人が座ってきた。
 一瞬げっ、と身構えるけどその緊張はすぐに解けた。
 太めのふちの眼鏡が視線をオブラートにしている。
「圭ちゃん、来てたんだ」
「新しい店が入るって聞いてたからね」
 見ると、ついさっき買ったらしい袋がいくつか。
「外で会うって珍しいね」
「うん。あたしも見つけたときちょっとびっくりした」
「一人で来たの?」
「そ。急に思い立ってさ。変に早く目が覚めちゃったし」
 同じだね。
 後藤はちょっと嬉しくなった。

「後藤、これからどっかまた行くの?」
「ううん。疲れちゃったし。そろそろ帰ろっかなって思ってたんだ」
「へぇ〜っ」
 保田は何か考えるみたいにして頬杖をついた。
「じゃあさ、ウチに来ない? あたしも退屈してたし」
「いいの?」
 保田は言ってすぐに立ちあがった。
 じゃ、決定ね。



 一人暮しの圭ちゃんの部屋。
 なんだかんだで来たことってなかったし。
 掃除が嫌いというわりには意外とすっきりしているな、ていうのが第一印象になった。
「割と広いね」
 保田は冷蔵庫からペットボトルとグラスを二つ持ってきてテーブルに置いた。
 後藤がそれを準備していると、がさごそとさっき買ったばかりらしいものを取りだし始める。
「何買ったの?」
 んー、と保田は含んだ笑いをして一つ袋を取り出した。
 見覚えのあるロゴ。
 封を切って取り出すと、それは鮮やかな色のセーターだった。
「あ! それって・・・」
 見てたんだ、って言いそうになった。偶然じゃ、ないよね。
「遠くから見ててさ。後藤に似合いそうな気がしたし」
「先に声かけてくれればいーじゃん」
 悪いことをしたわけじゃないけど照れてしまって、後藤はふくれっつらを向けた。
 ごめんごめん、とイタズラっぽく保田は笑う。
「着てみる?」
「いいの? 高かったじゃん、これ」
 とは言いながらもちょっと袖を通してみたかったんだよね。
 保田が手渡すとすぐに後藤は立ちあがって上着を脱いだ。


 けど、シャツを脱ぎかけたところで手が止まる。
 振り向くと、保田が着替えの様子をじいっと見ていた。
「何だよ・・・そんなじっと見ないでよ」
 普段みんなでうわーっ、と着替えるときなんかは気にしないんだけど、こうして二人だけの時にじっと見つめられたりすると少し変な感じだ。
 後藤がお腹のあたりまで捲り上げたまま止まると、保田は今気がついたみたいに笑って目をそらした。
「わかったよ、じゃ、後ろ向いてるから」
「うん・・・」
 言って椅子を逆にした。
 後藤はなんとなく恥ずかしい気分になったけど、意識しないことにして続きを脱いだ。

「似合うじゃん、その色」
 できたよ、という声で保田が振りかえった。その第一声。
「体の線も見えるし、色っぽく見えるよ」
「本当? えへへへへ・・・」
 素直に誉められて照れてしまう。
 脇の姿見で確かめると、思ったほど年齢に違和感もなかった。
 あたしって大人じゃん! とか思ったり。
「いーなー。あたしこれ買えばよかった」
 保田はグラスを持ち上げて一口含んだ。
「いいよ。あげる、それ」
「ウソ! ちょっと、それは悪いよ」
「もともと後藤をびっくりさせようと思って買ったんだし。いいよ」
 びっくりして目を丸くすると、保田が立ちあがってそばまで来た。


 姿見と対峙する後藤の後ろ側に回って一緒に鏡を見る。
 こっそり、けど確かに圭ちゃんよりも後藤に似合う色かもなーとか思ったりした。
「あ、ちょっと」
「えっ!?」
 保田が急に頭を下げて後藤の首筋に触れた。
 一瞬びくっとして体を引く。
「タグさ。ついたままになってるよ」
 うなじのところ。そういえばちくちくしてるっけ。
 そっか、とおとなしくしたがって元の体勢に戻る。
 保田が指で引っ張り出して、歯を立てた。
 ぎくっ、とその瞬間は体がこわばる。
 鏡を見ると、後ろから抱きしめられているみたいでもあって、どきどきした。
「取れたよ」
 あっさり体を放す保田に、後藤はほぅ、と息をついた。
 なんか、後藤今日ちょっと変なのかな・・・。

「本当にいいの?」
「うん。そのうちなんかでお礼して」
「逆に高くつきそうだなー」
 ははは、と笑った。
 気のせい、だよね。
 圭ちゃん、笑い方が少し冗談ぽくないよ。
 笑いが止まると、会話も止まった。
 やっぱり秋物だからか、冷房があるとはいってもちょっと暑い。


「ねえ、脱いで」
「えっ?!」
 急に保田がそう言ったのに、後藤はびっくりした。
 最初に座っていた椅子に戻って、保田が自分をじっと見ている。
「暑いでしょ?」
「あ、は・・・。そうだよね、そうそう・・・」
 後藤はきっと、「脱いで」じゃなくて「脱がないの?」の聞き間違いか言い間違いなんだと思うことにした。
 そんなわけないし、ね?

 けど、今度もまたじいっ、と見られる感じ。
 セーターの下はすぐ下着だし、後藤はまた戸惑った。
「うーん・・・」
「また後ろ向いた方がいい?」
 からかうみたいな言い方だった。
 なんとなく、反抗してみたくなって。
「いいよ。別に」
 言って、勢いよくセーターを脱いだ。
 ブラジャーだけになって、セーターを椅子にかける。
 保田は、おもしろそうにそれを見ていた。
「ねえ」
「えっ?」
 さっき脱いだ自分のシャツを目で探していたとき、また保田が言った。
「脱いでよ」
「脱ぐって・・・え?」
 保田はあらわになった後藤の肌から目をそらさなかった。
「それも、全部」
「な、何? えっ?!」
 からかってるの?

 くすくすくす、とおかしそうな笑い声が部屋の中に響く。
 まるでばかにされてるみたいな軽い屈辱感が後藤の中にこみ上げてきた。
「な・・・なんだよ。何で笑うの?」
 後藤が言いながらも自分の上着を取った。
 恥ずかしさに胸元を隠す。
 保田は笑いを止めて、そうした後藤をまた舐めるように見た。
「からかってなんてないよ。ただ、そういうのも見てみたいかな、って思ってさ・・・」
 立ちあがって、一歩、二歩。
 後藤は、胸で握り締めた手に力をこめてしまう。
 保田が手の届く距離にまで近づいて、後藤の胸を押さえる手をつかむ。
 そのとき初めて気がついたけど、後藤、あたし、手がかたかたと震えているみたい。
「どうしたの? 何か、怖い?」
 包むみたいにして両手でそれを覆った。
 後藤は必死に首を振る。
「圭ちゃん、どうしたの?」
 言ってみる。
 けど、返ってくるのは微笑みばかりで。
「どうも、しないよ。後藤こそ、どうかした?」
 やや、下瞼の上がった保田の笑顔。
 胸元の腕を横にゆっくりとどかすように動かされる。

 鎖骨のあたりを親指がなぞった。
「!」
 そのとき、後藤はびくっと腰を引いてしまった。

 下半身が熱い。
 腰の内側のあたりが、ぐっとしめつけられるような感触だった。
 じりじり、と後ろに下がると鏡のわきの壁に背中がつく。
「や・・・やめようよ。圭ちゃん。いたずらだったらさ・・・」
 保田は後藤の肩を軽くつかんだままこめかみのあたりの髪に顔を寄せた。
「本気で嫌なら、ふりほどけば?」
 唇で髪の毛をいくらか挟んだ、じゃり、という音が聞こえた。
 握り締めていた手の力が弱くなる。
 どきどきして、目もあけていられない。
 目じりに、柔らかいものがあてられたのがわかった。
 薄く目を開くと、上目遣いに自分を見る圭ちゃんの顔があって。
 わざとじゃないかってくらい思いきりゆっくりなスピードで、唇に近づいてきた。
 生温かくて、ぬるっとしてて。
 目を閉じるとどしんどしん、と心臓の波打つ音が響いてきた。

 知らず知らずに胸を隠していた腕が下がって、同時に持っていたシャツを落とす。
 保田は、剥き出しの肌の背中に指で円を描いた。
「座れば?」
 ずず、と壁伝いに腰が落ちていく。
 床についたとき、保田は脚の間に体を挟むような体勢になっていた。
 スカートから覗いた膝を持ち上げる。
「圭ちゃん・・・」
 だって、圭ちゃんだよ?
 どうしてこんなことになっちゃったの?


「ちょ・・・やっぱ、や・・・だ」
 体に割って入ろうとする保田の肩を必死に押し返した。
 保田はおとなしく離れようとするかに見せて、しっかり後藤の膝の間から体勢を動かさずにそう言った顔を見た。
 後藤は、顔が真っ赤になる。
 下着一枚の肌に、視線が痛いくらいだ。
「嫌? どうして? 何が?」
「・・・だって、圭ちゃんがHなことしようとする、から」
 保田はちょっと大げさなくらいに驚いてみせた。
 答えようとする声がはっきりと出ない。
「ねえ、Hが嫌なの? あたしが嫌なの?」
 保田は唇を寄せた。
 何も答えられない。ただ、奪われるままになる。
 舌がこじ入れられて、自分のそれを廻すように探られた。
 ぴちゃ、と大きな音が聞こえる。
 顎までゆっくりと舐められて、それからやっと解放された。
「嫌でも、ないんじゃない?」
 その動きに合わせた後藤を見透かして保田が言った。
「だって。急だし・・・それに、こういうのって・・・」
 きゃっ!
 上手な言い訳が見つからないうちに保田が次の動きを開始する。
 下着の上から胸をつまんだのだ。
「・・・いいよ。それで? 続きは?」
「だから・・・そのぅ・・・」
 ぐっと言葉途中で保田の肩を握った。
 もみしだくように両手が動いてくる。

 ふうふう、と乱れそうな呼吸を必死に戻そうとする。
 保田は下着沿いに腕背中に、ホックをはずしにかかった。
「そ! それはだから!」
 だけど制止に全く従う様子も見せないで、あっさりと背中は剥き出しにされてしまった。
 前を押さえようとする手と、取り合いになる。
「そんなに嫌? どうしても?」
「・・・」
 うつむいて、黙ったままになってしまう。
「じゃ、やめよっか」
「えっ?!」
 顔を上げた瞬間胸の少し上のあたりを噛みつかれた。
 谷間のあたりへと徐々に頭が下がると、はっ、と苦しい息が漏れる。
「う、うそつき。やめるって、さっき・・・」
 背中をつうっと指が伝わるのを感じて、体を反らせた。
 倒れそうになる体を支えるのに片腕をつくと、胸を覆っていたガードが弱くなってしまう。
 隙を見て胸に再び触れようとする保田の手を必死に上からつかみ直した。
「したくない?」
 説得力のある目。
 もう、途中からこうなるんだってことは予想できたけど。
「放しなさい」
 穏やかに、だけど反論を許さないように保田は言った。

 おそるおそる、後藤の手がはずされる。
 肩を滑るようにして紐が降りて、上半身を無防備な姿に変えた。
「いい子だね。後藤・・・」
 つうっと、胸の先端めがけて舌が動く。
 軽く噛んで、放して、また噛んでの繰り返し。
 後藤は、ぼうっとし始めた中で、保田の頭を抱えた。
 髪の毛中に指を入れる。
「後藤、腰」
「えっ?」
「少し浮かせて」
 背中の手が下に来て、後藤の腰を少し持ち上げるようにした。
 スカートが捲り上げられて、その下をくぐる。
 柔らかい指先が、それに合わせて自分の真ん中に届いたのを感じる。
「あ! 待って、待ってよ。圭ちゃ・・・」
「待てないよ」
 いきなり下着の中に入りこんで、肉を割った。
 濡れたような音がして、敏感な場所をつまむ。
「いいじゃん。もう、嫌なんて言わせないよ」
 言えないよ。
 どきどきと、どこまで早くなるか自分でもわからないような鼓動を打ち鳴らしながら、後藤は目を閉じた。
 唇が、また塞がれる。


 気が遠くなって、いつのまにか夢中になってた。
 何度か場所を変えたり、体の位置を変えたり。
 よく覚えてないんだけど、最後にはベッドの上に連れて行かれたらしい。
 開いて、とか。
 動いて、とか。
 動かして、とか。
 色々な指図があって、ほとんどなすがままにそれに従った。
 強く背中をつかまれて体をのけぞらしたあたりで、記憶が飛んだ。
 ぐったり疲れて、しばらく横になる。
 いつのまにか眠ってしまっていた。

 目が覚めたときには圭ちゃんの姿がなくなってて、後藤は白いシーツの上で一人ぼんやりと視界がはっきりするのを待った。
 なーにがあったんだっけぇ。
 がばっ!
 起きて、自分が裸なことに顔を赤くした。
 これは! コレハ! これは!
 慌ててシーツを巻いたまま立ちあがると自分の服を探した。
 あっちこっちに散らばって転々としてたけど、とりあえず全部発見。
 かき集めるようにすると、急いで身につけた。
 微妙にいろんなところが湿っぽいのがすごく恥ずかしかった。
 シャワー浴びたりとかしたかったんだけど、とりあえず今圭ちゃんはいないみたいだし、戻ってきたところで何をどう していいかわからなかったし、まして続き、なんて話になるのも怖かったので、ほとんど逃げ出すようにしてそ の部屋を出た。
 ぱたぱたぱた、と階段を駆け下りる。




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